高松高等裁判所 昭和37年(ネ)309号 判決 1963年12月19日
控訴人 渡辺逸郎
被控訴人 国
訴訟代理人 村重慶一 外一名
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事 実 <省略>
理由
訴外中川善吉が郵政省に勤務する一般職たる国家公務員であつたところ、昭和三六年六月三〇日退職したこと並びにその退職に際し右訴外人が国家公務員等退職手当法により、被控訴人に対し金二、一八八、七二五円の退職手当受給権を取得したことはいずれも当事者間に争いがない。
控訴人は昭和三六年一月一日右訴外人との間に、将来発生すべき右受給権のうち金九八五、〇〇〇円の部分を譲り受ける旨の契約を締結し、その効果として右受給権の一部を取得した旨主張しているけれども、国家公務員等退職手当法による退職手当は、退職者の従前の国家公務員等としての勤労に報いるとともに、退職による退職者またはその遺族の生活上の不安ないし脅威を防ぎ、それらの者の生活資料に充てる目的で支給されるものであつて、退職者または遺族のみに支給することを必要とし、従つてその受給権は性質上他人に譲渡することが許されないものであると解するのが相当であるから、控訴人主張の譲受契約は無効であつたといわなければならない。
そうすると、右契約によつて右受給権の一部を取得したことを前提とする控訴人の請求は、その他の点を判断するまでもなく、理由のないことが明らかであり、棄却を免かれない。原判決は結局相当であるから、本件控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 安芸修 東民夫 水沢武人)